本研究の目的は、Notchシグナルの骨と造血代謝における具体的な作用機序を同定することであり、Notch受容体のリガンドであるJagged1(J1)とDelta like ligand 1(D1)の遺伝子改変マウスを用いて研究を行い、骨芽細胞と破骨細胞の分化と機能の変化をin vivo およびin vitroで明らかにした。 Notch受容体リガンドの遺伝子改変による骨形態の変化を組織学的解析と骨形態計測による定量により検討し、以下の点が明らかとなった。 a)骨芽細胞特異的に【J1】を過剰発現させたマウスでは、骨形成が低下し骨吸収が亢進傾向にあるという高回転型の骨量の減少が見られた。骨粗鬆症モデルマウスの確立。 b)骨芽細胞特異的に【D1】を過剰発現させたマウスでは、骨量が大幅に増加していたが、骨形成も骨吸収も測定時点では低下していた。大理石病モデルマウスの確立。 c)Mx-creプロモーターを用いて、生後にJ1とD1を欠損させたマウスは、どちらも明らかな形態異常は見られなかった。ノックアウトの実験に関しては、骨形成が完成する前の発生時期におけるNotchリガンド欠損の影響を解析することが重要であると思われる。 それぞれの遺伝子改変マウスにつき、骨芽細胞と破骨細胞の分化と機能をin vitroで解分したところ、J1の標的細胞は破骨細胞であり、D1のついては骨芽細胞に直接的に影響を及ぼしていることが強く示唆された。 以上のin vivoとin vitroの実験により、Notch受容体のリガンドであるJ1とD1が細胞特異的に作用して、骨代謝の恒常性維持を担っていることを証明した。
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