先に私はヒト変異α-GalAを発現する(TgM/KOマウス)を作製し、このマウスに低分子シャペロンである1-デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ)を投与することで、DGJがこの変異酵素の活性を上昇させることを報告し、ファブリー病に対する新規治療法としてシャペロン療法を提唱してきた。しかし、このマウスでは無処置の状態で糖脂質Gb3の蓄積が少なく、ファブリー病の直接の病因であるGb3の蓄積に対しての評価には不適当であった。そこで、本研究においてマウスのGb3合成系を活発化することでGb3の蓄積を更新し、組織でのGb3蓄積に対する薬物の影響を検討できる新たなモデルマウスの作製を試みた。昨年度までにGb3合成酵素(G3S)を高発現するTgM(+/-)/G3S(+/-)/KOマウスの作製に成功し、組織中のGb3量が顕著に高いことを認めた。さらにこのマウスに0.05mM DGJを4週間経口投与すると腎臓や心臓のGb3量が有意に低下することを確認した。今年度はさらにこのTgM(+/-)/G3S(+/-)/KOマウスをこれまでのTgM(+/-)/KOマウスと比較し、Gb3合成酵素遺伝子導入の影響を検討した。その結果、マウスの成長過程での変動を含め、組織Gb3量の変動パターンに変化は無く、生理的な状態でGb3量の増加が起きていると考えられた。また、DGJはα-GalAの阻害剤であることから、高濃度の投与はGb3の蓄積を増加させる可能性が考えられるが、25倍高濃度のDGJを投与しても組織Gb3量に変化は無く、この濃度では酵素の阻害は生じていないことを確認した。以上により、今回作製したマウスはファブリー病のシャペロン治療における効果と安全性を評価する上で有用なモデルマウスであると結論した。
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