研究概要 |
細胞外pH感知性受容体TDAG8はGタンパク質共役型受容体の一種であり、細胞外pHの低下に伴い活性化されることは私どもが以前に報告した(lshii, S., Kihara, Y., and Shimizu, T. (2005) Identification of T cell death-associated gene 8 (TDAG8) as a novel acid sensing G-protein-coupled receptor. J. Biol Chem 280, 9083-9087)。TDAG8はヒトでは脾臓、胸腺、血球細胞で発現が高いが、これらの組織以外の様々な癌化した組織で発現の増加が確認されている。そこで、TDAG8をマウス肺癌Lewis Lung Carcinoma(LLC)細胞に過剰発現させ、これをマウスに尾静脈投与したところコントロール細胞投与マウスと比べて肺における腫瘍形成が促進されることが明らかとなった。また、皮下にLLC細胞を注射した揚合も同様の結果が得られた。様々なin vitro解析を行ったところ、TDAG8は酸性条件でPKA及びERKを介して細胞増殖の維持に関わり、さらに癌関連遺伝子であるCox-2の発現を誘導していることが示された。悪性腫瘍内部が酸性であることは昔からよく知られている。これは血管から離れた部位で癌細胞が増殖すると低酸素状態となり、pHを下げる乳酸などが蓄積することに起因すると考えられている。今回の結果から、TDAG8はこのような腫瘍内の酸性状態を感知して癌細胞の増殖を維持し、さらにCox-2などの癌関連遺伝子を誘導していると考えられる。
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