細胞外マトリックス(ECM)分解と細胞運動誘導の協調的制御は、細胞運動・浸潤の連続性維持に重要であると考えられる。特に膜型マトリックスメタロプロテアーゼ(MT-MMP)は、ECMの変化誘導とそれを感知する細胞システムを制御しており、MT-MMPによる細胞局所超微小環境の変化が細胞運動・浸潤の連続性維持に密接に関与していると推測される。本研究では、MT1-MMPのECM分解による細胞外微小環境変化誘導が細胞接着斑の代謝回転と細胞運動・誘導シグナルの連続性を維持する機構の解明を行い、がん転移阻止に向けた新しい分子標的開発を目標とする。 1) MT1-MMPによる細胞外微小環境変化誘導と浸潤性増殖 ヒト扁平上皮癌細胞のコラーゲンゲル培養において、MT1-MMP活性を合成阻害剤やsiRNAを用いたknockdownnにより阻害すると細胞増殖が顕著に抑制された。この際、FAKとERKの活性化が抑制されていた。また、MT1-MMP阻害はインテグリンαvβ3を介したc-Srcの活性化も抑制することも見出した。c-Srcのエフェクター分子を検索したところ、コラーゲンゲル内においてMT1-MMPはPaxillinを介してERK活性化と細胞増殖を誘導することを証明した。MT1-MMPはコラーゲンゲル内において細胞外環境の変化を誘導し、c-Srcの活性化を惹起し、Paxillinを介してERK活性化と細胞増殖を誘導すると考えられた。 2) MT1-MMPによるファイブロネクチン(FN)重合制御 ヒト線維肉腫HT1080細胞における細胞性FNの産生を亢進し、かつ、MT1-MMPを阻害することにより細胞周囲におけるFNの線維化の顕著な亢進が認められた。MT1-MMPはFNの分解とN-カドヘリン切断による細胞間接着の減弱化によりこのFN線維化過程を負に制御していた。FNの沈着と線維化は、細胞生存シグナルを細胞に付与すう一方で、細胞-ECM間接着を強固にすることにより細胞運動の抑制を招いた。以上の結果から、MT1-MMPは細胞性FNの細胞表面における重合とN-カドヘリンによる細胞・細胞間接着に対して抑制的に働き、細胞運動を負に制御するFNの線維化を抑制していることが明らかになった。
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