今回の研究では核が緑色蛍光蛋白(Green Fluorescent protein; GFP)、細胞質が赤色蛍光蛋白(Red Fluorescent protein; RFP)で標識された2色のがん細胞を用いた。この細胞を使用することで核および細胞質の変化を別々に観察することができ、細胞死を形態的にリアルタイムに観察することが可能であった。 本年度はin vivoの研究を中心に行った。2色で蛍光標識されたマウス乳癌細胞もしくはヒト線維肉腫細胞をヌードマウスの腹部静脈内に直接移植し、転移巣を作成させた。その後、尾静脈より抗癌剤(シスプラチン;5mg/kg)を投与し、蛍光顕微鏡を用いて生きたマウスの中での癌細胞の形態学的な細胞死を単一細胞レベルで継時的に観察した。 核が凝集せずに細胞死を起こすネクローシスでは、核がその形を維持しながら細胞質から脱核するタイプ、核が紡錘形に変形しながら脱核するタイプ、また細胞質が分解され核が取り残されるタイプが確認できた。核が凝集して細胞死するアポトーシスでは、核が断片化しながら多数の核小体を作っていくタイプと、一旦凝集した一つの核から複数の核小体ができるタイプが確認できた。 一般的にネクローシスとアポトーシスのみにしか分類されていない形態学的細胞死だが、実際にはそれぞれの中に更に異なる形態変化が確認できた。これはそれぞれの細胞死に分子生物学的なメカニズムの違いが存在する可能性を示唆しており、今後の研究課題の一つとなると考えている。今後は、作用点の違う抗がん剤や放射線療法などを用いて更に異なる形態の細胞死がないかデータを蓄積していくと共に、これまでのデータをもとに細胞死の新たな分類化を進め、より効率的にがん細胞を死滅させる抗がん剤の開発に貢献していく。
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