研究概要 |
本研究ではヒト疾患(循環器疾患や精神疾患等)の発症に関わる低分子量GTPase Rhoファミリーシグナル伝達系分子の同定とその分子基盤を明らかにすることを目的としている。既にRhoファミリーの活性抑制因子であるARHGAP9のSNP(Ala370Ser)が、薬物誘発性冠攣縮と関連が認められることを見出している。本年度は、ARHGAP9の性状解析を行った。 ARHGAP9は、Rhoファミリー活性を抑制するGAPドメインとSH3ドメイン、PHドメインから構成される。Ala370Serのアミノ酸置換を生じるSNPは、脂質や蛋白質との相互作用に関わるPHドメインの中に位置する。ARHGAP9はin vitroでRhoファミリーメンバーの中でもRacとCdc42特異的に活性抑制効果があることが報告されていた。そこで、細胞内においても同様の特異性を示すか、COS7細胞を用いて検討したところ、COS7細胞においてARNGAP9はRacの活性を抑制したがCdc42やRhoの活性は抑制しないことを見出した。Racのアイソフォーム(Rac1とRac2)に対してはいずれにも作用することを示した。また細胞にARHGAP9を発現させると、細胞の接着能や運動能が低下した。このことは、Racが細胞接着や細胞運動に必須の機能を持つこととよく一致する。次にSNPの存在するPHドメインに注目し、PHドメインの脂質に対する特異性を調べた結果、ARHGAP9のPHドメインはPI(4,5)P2とPI(3,4,5)P3に高い親和性を示した。SNPに伴うアミノ酸置換により脂質への結合能に変化があるかを検討したが、370A型と370S型の間で顕著な差は無かった。ARHGAP9のSNPが血球系細胞において活性酸素種の産生に影響を及ぼすかについても検討したが、顕著な差は認められなかった。引き続き、アミノ酸置換による機能変化があるか、検討を行う。
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