小胞体は、細胞膜タンパク質や分泌タンパク質の合成、修飾、成熟の場である。この過程は複雑であるため、細胞内外からの種々のストレスにより容易に障害される。この小胞体機能障害は魂そのままでは細胞全体の障害を招き、生存を危うくする。そのため、細胞は、小胞体ストレス応答とよばれる一連の反応系を誘導し、小胞体機能の改善・維持を図る。しかし、小胞体機能障害が高度で、回復不可能な場合にはアポトーシス経路が誘導され、障害細胞全体が処理され、周囲組織への悪影響を回避しようとする。このアポトーシスには、小胞体ストレス誘導性転写因子CHOPなどが関与している。しかし、ストレスが強度あるいは長期におよび、多くの細胞が失われた場合には、組織機能が低下するため、小胞体ストレスは、多くの病態に関与している。 最近、我々は小胞体ストレス-CHOP経路が炎症性サイトカイン分泌誘導を介して、炎症病態にも関与していることを明らかにした。本年度は、この機構の詳細な分子機構の解析を行い、炎症刺激の際には、三種類の小胞体ストレスセンサーのうちPERKが活性化せず、アポトーシス誘導の際よりもCHOPの誘導が遅れることを明らかにした。そのため、CHOP誘導よりも早く小胞体機能保護に働く分子群が誘導され、アポトーシスが抑制されるものと考えられた。また、CHOPノックアウトマウスを使用して、一種の血管壁の慢性炎症であると考えられている動脈硬化への小胞体ストレス-CHOP経路の関与について検討を行った。その結果、進行した動脈硬化巣内のマクロファージ内に蓄積した遊離コレステロールが、CHOP誘導を介してBaxの活性化に働き、動脈硬化末期におけるプラーク不安定性の原因となっていることを明らかにした。今後さらに、動脈硬化における小胞体ストレスの関与の詳細な分子機構について明らかにしていきたい。
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