神経シナプスの形成や可塑性の分子機構の解明は、認知障害、精神神経疾患等の病態の解明や治療法の開発につながる。一方、低分子量G蛋白質Rap2は癌遺伝子産物Rasの類縁分子であるが、私共はRap2がストレス応答性MAPKであるJNKの上流で機能する3つのMAPKKKK(MAP4K)を活性化することを報告してきた(Rap2-MAP4K系)。これは神経系でも追試され、Rap2-MAP4KがJNKを介してAMPA受容体シナプス伝達のLTDに関与することが報告された。しかし私共はこのRap2-MAP4K系の標的分子はJNKだけでないと考え、実際、シナプスPSDの足場蛋白質TANC1を新規標的分子として同定し報告した。さらにRap2がrecycling endosome(RE)に局在し機能することを報告したが、受容体がREからシナプスに動員される点からも興味深い。また、最近、Nedd4-1ノックアウトマウスを用いた実験で、Rap2のユビキチン化がMAP4Kを介して神経シナプスの機能と形態を制御することが判明している(Kawabe et al. 2010)。すでにRap2-MAP4K系に関する複数のコンディショナルノックアウトマウスの作成も着実に進行しているので、これまでの生化学的解析に加えノックアウトマウスの個体、細胞レベルでの表現型解析によりRap2-MAP4K系の神経系新規標的分子とその制御の解明が期待される。
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