平成20年度に実施した研究から、小胞輸送調節タンパク質syntaxin-4の結合分子タキシリンが、乳癌を含む様々なヒト癌組織において過剰発現していることが明らかとなった。そこで、タキシリンの発現変化が癌の発症もしくは進行に対して機能的な関わりを持つのかどうかについて解析を進めるために、転移性乳癌細胞株BT-549においてタキシリンの発現抑制を行うことを試みた。タキシリン特異的なRNAiを発現するshRNAベクターを構築してBT-549細胞へ導入した結果、安定的にタキシリンの発現が抑制されている細胞(タキシリンKD/BT-549)を樹立することに成功した。まず細胞増殖について検討したところ、タキシリンKD/BT-549細胞では元のBT-549細胞に比較して明らかに増殖速度の低下が認められた。また増殖亢進と共に癌細胞の特徴である細胞死に対する抵抗性を調べるため、アポトーシスを誘導する抗癌剤の一つカンプトテシンンでこれらの細胞を処理したところ、タキシリンKD/BT-549では感受性の増進すなわち細胞死を起こしやすくなっていることが判明した。BT-549細胞は転移性乳癌から樹立された細胞株であり、高い細胞運動能を保持している。そこでBoyden chamberを用いてBT-549細胞とタキシリンKD/BT-549細胞の運動能を比較したところ、タキシリンの発現を抑制すると転移性癌細胞の特徴である運動能亢進も抑制されることを見出した。これらの結果は、タキシリン過剰発現によって小胞輸送経路が活性化されることが、転移性癌細胞の増殖亢進・細胞死抵抗性・高い浸潤運動能の獲得に結びついている可能性を強く示唆している。
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