これまでに報告していたHeLa細胞におけるBHD産物(FLCN)やFNIPLの発現抑制によるS6K1リン酸化抑制の分子機構の解明を進めた。mTOR複合体特異的な免疫沈降などを利用して分析したところ、FLCNの発現抑制によりラバマイシン感受性mTOR複合体(mTORC1)の形成が抑制される傾向にあることがわかった。ラパマイシン非感受性複合体(mTORC2)の形成には大きな変化が認められなかった。このことから、少なくともHeLa細胞においては、FLCNはmTORC1の複合体形成に影響を与えているものと推察される。野生型FLCNの一過性発現により、S6K1リン酸化は亢進するが、FLCNのリン酸化部位の変異はS6K1リン酸化の促進にとりわけ大きな影響を与えなかった。FLCNリン酸化はmTORC1の複合体形成とは異なる反応において機能に関わることが予想される。一方、HeLa細胞においてBHDをsiRNAによりノックダウンしたところ、サイクリンD1タンパクの発現が亢進することがわかった。その分子機構を調べる目的で、まずリアルタイムPCRによりサイクリンD1遺伝子(CCND1)のmRNAの発現量を調べた。その結果、ノックダウン細胞においてCCND1 mRNA量が増加していることがわかった。FLCNの発現抑制により、転写制御、あるいはmRNA安定性制御のレベルにおいてサイクリンD1の発現亢進に関わる破綻が生じていることが予想される。現在、サイクリンD1プロモーターを用いたレポーターアッセイにより、転写制御の変化を分析している。これらのサイクリンD1やmTORC1に関わるシグナル伝達機構の特定を進めることにより、腫瘍発生の分子機構解明が進むものと期待される。
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