私達は酸性スフィンゴ糖脂質のGD3がヒトメラノーマ細胞の癌性形質に関与することを明らかにしてきた。その結果、細胞膜上のGD3の発現により増殖因子受容体とインテグリンからのシグナルが細胞膜近傍で収斂し、より効果的に細胞内シグナル伝達経路が活性化され、細胞増殖や浸潤性が亢進すると推察された。 今年度は、I型コラーゲン(CL-I)とインテグリンを介した接着刺激におけるGD3の役割を明らかにする為に、GD3非発現ヒトメラノーマ細胞株SK-MEL-28-N1にGD3を発現させたN1-GD3(+)細胞およびコントロール細胞(N1-GD3(-))を用いて研究を進め、次の結果を得た。 1)GD3(+)細胞及びGD3(-)細胞のインテグリンβ1の細胞膜脂質ラフトへの局在を検討した結果、GD3(+)細胞ではCL-Iによる刺激がない時点(0分)でもインテグリンの著明な脂質ラフトへの局在が認められた。刺激後15分でラフト局在はより顕著になった。GD3(-)細胞では、刺激後0分ではインテグリンのラフト局在は殆ど検出されず、刺激後も局在は少量であった。 2)GD3(+)細胞はGD3(-)細胞よりもCL-Iの接着刺激によるAktのリン酸化(Ser473及びThr308)が増強した。 3)インテグリンからのシグナルをAktに伝達することが報告されているintegrin-linked kinase(ILK)についてAktの活性化への影響を検討した。ILKのノックダウンにより、GD3(+)細胞ではAktのSer473とThr308のリン酸化は明らかに低下した。GD3(-)細胞ではリン酸化の低下は僅かであった。 4)CL-Iによる接着刺激のみではErk1/2は殆どリン酸化されなかった。しかし、FCS刺激が残存すれば、GD3(+)細胞ではCL-Iによる接着刺激によってErk1/2は顕著にリン酸化された。
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