骨を分解する破骨細胞の活性化と制御の分子機構を明らかにするため、(1)骨分解を誘導する開始因子とその受容体の探索、(2)環状接着帯(シーリングゾーン)の形成に関わる細胞骨格再構築のメカニズムの解析、(3)骨分解酵素の放出に至る骨分解顆粒の細胞内輸送とこの輸送を支える微小管ダイナミクスの制御機構に焦点をあてて研究に取り組んできた。破骨細胞としては、ヒト末梢血由来の単球およびヒト白血病細胞株HL60を、分化誘導因子存在下に培養して用い、in vitroに骨溶解実験をおこなった。その結果、破骨細胞をATPで刺激すると、(1)既存のアクチン細胞骨格は一旦崩壊し、環状の接着帯であるシーリングゾーンが再構築され、(2)カテプシンKなどの骨分解酵素を含む酸性顆粒の輸送が加速して骨上かつ環状構造内部に放出される事、これら一連の反応は、(3)P2X_7受容体を介しており、かつ(4)αチューブリンの脱アセチル化阻害剤により可逆的に停止する事を見いだした。さらに、チロシンキナーゼSykの発現を抑制すると、骨溶解の阻害とともに、αチューブリンの脱アセチル化反応速度を減少させることも確認した。これらの結果より、ATPが受容体P2X_7を介して骨吸収開始因子として機能し、ATP/P2X7シグナルが、アクチン細胞骨格の再構成によるシーリングゾーンの形成と骨分解顆粒の輸送と放出を誘導、この一連の反応の上流において、Sykが、微小管のアセチル化/脱アセチル化の制御を介して骨の溶解に必須の役割を果たしている事が示唆された。これらの成果は、Genes to Cells(14 : 871-84. (2009))に発表した。今後は、これらの成果をさらに発展させ、接着帯の形成およびリソソームの輸送と放出に必須の標的分子を、Sykの下流分子に着目して探索する。
|