本研究は、代表的難治癌である肺癌の高転移性・高悪性度獲得に係る分子機序を、エピジェネティック異常を中心に解明していくことを目的としており、今年度は高悪性度肺癌である神経内分泌分化肺癌を中心に検討した。この神経内分泌分化の誘導因子ASH1を検討し、ASH1がエピジェネティックな異常を誘導し、癌抑制遺伝子群の発現を抑制することを既に見出しているが、今年度は更に詳細にASH1の下流シグナルを検討し、ASH1により発現抑制され、神経内分泌分化肺癌の高悪性度に係る候補遺伝子として新規遺伝子ADw1を見出し検討を加えた。ADw1は肺癌検体及び肺癌細胞株で高頻度に発現低下していた。ADw1発現低下のある肺癌細胞でbisulfite sequencing・ChIP解析にてエピジェネティック異常の有無を検討しところ、ADw1プロモーター領域のDNAメチル化・抑制性ヒストン修飾が検出され、エピジェネティックな異常によりADw1の発現低下が起こっていることが確認された。又、ASH1が細胞接着低下を誘導することを見出しているが、ADw1の強発現系・ADw1ノックダウン系を用いてADW1の機能を検討したところ、ADw1は細胞接着・運動能に関与し、ADw1発現低下がASH1による肺癌悪性化に関与することが強く示唆された。以上のような解析から、ADw1遺伝子はエピジェネティック異常の標的遺伝子の一つで、癌抑制遺伝子としての機能も持ち、肺癌の発症・悪性化において重要な役割を果たしている可能性が高いと考えられ、更に検討を加えていく。 又、高転移能獲得機構の解明のために、申請者らの研究グループが樹立した高転移性肺癌細胞株LNM35に関して網羅的遺伝子発現解析を行い、高転移性に関連する遺伝子群を詳細に検討している。今後さらに網羅的エピジェネティックな解析も含め、検討を進めていく。
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