本研究は、代表的難治癌である肺癌の高転移能・高悪性度獲得に係る分子機序を、エピジェネティック異常を中心に解明していくことを目的としている。昨年度までに、高悪性度肺癌である神経内分泌肺癌を中心に検討し、神経内分泌分化誘導因子ASH1がヒストンH3リジン27修飾を制御して、エピジェネティックな異常を誘導し、癌抑制遺伝子群の発現を抑制することを見いだしている。昨年度さらにASH1の下流シグナルを詳細に検討し、肺癌で高頻度に発現抑制されている新規癌抑制遺伝子候補ADw1を見出し、そのエピジェネティックな異常を検討した。今年度は、このADw1の機能解析を進めた。ADw1をノックダウンすると、細胞が小型化し細胞間接着が低下した。一方、ADw1を肺癌細胞株に強制発現させると、細胞が多核化・大型化し、細胞周期停止に至った。ADw1は主に細胞膜下に存在するので、ADw1は細胞外環境に反応して、細胞増殖・細胞分裂を抑制的に制御する新しい癌抑制遺伝子と考えられた。このようにASH1が制御する下流シグナルを検討することで、更に今後重要な遺伝子が見いだされると考えられる。 一方、肺癌の高転移能獲得に関しても、申請者らの研究グループが樹立した高転移性肺癌細胞株を用いて検討している。今年度更に、この高転移性株とその親株との間で、幹細胞マーカーの発現を検討したところ、高転移性株では幹細胞マーカーの発現亢進が見られ、高転移能獲得と同時に肺癌幹細胞が誘導されていることが示唆された。以上のような研究成果から来年度は、肺癌の進展に伴う高悪性度・高転移能獲得と肺癌幹細胞誘導とをエピジェネティック異常の面から検討し、統合的に理解していくことを目指していく。
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