本研究では肺癌の高転移能・高悪性度獲得に係る分子機序の解明を目指している。本年度は、その分子機序と癌幹細胞誘導との関連にも注目して、高悪性度肺癌である神経内分泌(NE)肺癌の発症・癌幹細胞維持に関わり、エピジェネティックな作用機序を持つことを申請者が見出しているASH1分子の下流シグナルの重要性を検討している。 本年度は、エピジェネティックな制御をゲノムワイドに継時的に検討するために、Tet-ON発現誘導システムを用い、非NE肺癌である肺腺癌細胞株において、ASH1がTet-ONにより発現誘導されるシステムを作成した。このTet-ONシステムでASH1を発現誘導すると、NE肺癌様の形態変化やNEマーカー発現誘導が確認された。これは申請者のこれまでのASH1の検討と一致する結果であった。更に本年度は、ASH1の下流シグナルのゲノムワイドな検索を進めた。その結果、ASH1が12個のマイクロRNA(miRNA)を発現誘導・8個のmiRNAを発現抑制と、両方向性の発現制御をすることを見出した。その中で特にmiR-375が1000倍以上と非常に強く発現誘導され、その誘導はASH1のエピジェネティックな作用機序によることが判明した。このmiR-375発現誘導の意義を検討するために、miR-375を導入して機能解析を進めたところ、miR-375がASH1のNE分化誘導シグナルの伝達に重要な役割を果たすことが判明した。本年度の研究で、NE肺癌におけるエピジェネティックな制御を継時的に検討することが可能となり極めて意義深い。またASH1がエピジェネティックな作用によりmiRNAを発現制御し、そのASH1-miRNAシグナルが、高悪性度のNE肺癌の発症に関わることが強く示唆されたことは新規で重要な所見であり極めて意義深い。
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