がんのエピジェネティクス異常のうち、DNAメチル化は発がん過程の早期から進行がんにいたるまで様々な遺伝子の発現抑制を介して関与していると考えられている。悪性胸膜中皮腫(中皮腫)は、早期診断法が確立しておらず極めて不良な疾患である。これまで悪性胸膜中皮腫においてDNAメチル化によるがん抑制遺伝子の不活化が報告されてはいるが、他の固形腫瘍と比べるとその詳細の解明は非常に遅れている。本研究では、中皮腫の発がん過程におけるDNAメチル化ならびにヒストン修飾異常の関与を明らかとし、さらに診断への応用を目指して研究を行った。中皮腫20症例においてMethylated CpG island Amplification-microarray法(MCAM法)を用いて、DNAメチル化標的遺伝子を網羅的に解析した。さらに我々が樹立した中皮腫細胞株を用いてDNAメチル化標的遺伝子をMCAM法で、ヒストンH3K27トリメチル化(H3K27me3)の標的遺伝子をクロマチン免疫沈降-マイクロアレイ法(ChIP-chip法)で解析した。中皮腫症例では平均377遺伝子がメチル化していた。一部の遺伝子はDNAメチル化非依存的に不活化されていることが強く疑われ、中皮腫細胞株を用いた解析からH3K27me3による不活化機構と考えた。本年度の研究から中皮腫の発生過程において、エピジェネティックな遺伝子不活化機構としてDNAメチル化とH3K27me3が深く関与しており、それらの標的遺伝子は異なるエピジェネティック治療薬により再活性化されることを見出した。さらにMCAM法により中皮腫特異的なDNAメチル化マーカーを同定した。今後胸水等の臨床検体を用いた検討を予定している。
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