研究概要 |
遺伝子は核内で自由に移動することはできず、染色体テリトリーによる制限を受ける。逆に、遺伝子の核内配置が染色体テリトリーの位置に影響すると考えられている。遺伝子の空間的配置を決定する機構を理解する事は遺伝子発現制御や病的染色体転座の発生機構の理解に役立つと考えられる。我々はCre組換え酵素による染色体組換えを蛍光タンパク質の発現を指標に検出する実験系を開発した。ヒトリンパ球細胞株Nalm-6にこの技術を応用し、任意の染色体転座およびcopy-number variaionの誘導が可能である事に加え、組換えの頻度が同一染色体内の遺伝子距離を反映する事を報告した(PLoS ONE 5 : e9846, 2010)。組換え頻度を反映する蛍光タンパク陽性の細胞頻度はフローサイトメーターにより簡便に測定できる。本手法は細胞固定を要するFISHによる距離測定と異なり、生きた細胞で距離を測定できる特長がある。今回、この実験系とレトロウイルスベクターによるランダムインテグレーションとを組み合わせて、ある特定の遺伝子と組換えを起こしやすい遺伝子が他の染色体上に存在するか検討したところ、遺伝子座がテロメアに近いほど染色体間の組換えを起こしやすいという結果が得られた。テロメアは染色体テリトリーの外側に位置して他の染色体と接触しやすい位置にある可能性が推測された。部位特異的組換え酵素を用いた遺伝子間距離測定が核内遺伝子配置を制御する機構の解析に利用できる事を示した。
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