研究概要 |
ヒトゲノム解析研究の進展により,現在まで約2000種類以上の疾患について診断目的の遺伝子検査法が開発・確立してきたが,関与する遺伝子の機能や発症機序までは解明されていないものが少なくない.本研究では染色体が間期細胞核において高度に区画化された"染色体テリトリー"と称される規則性のある核内配置をとっていることに着目し,関与する遺伝子の核内3次元配置が変化することによる臨床的影響,すなわち核内配置の変化が要因となる新たな疾患発症のメカニズムを想定し,その検証を目的として3D-FISH解析を試みた. これまで積み重ねてきた3D-FISH解析における遺伝子領域の相対的核内配置に関する基礎実験をふまえ,22年度は,患者の約70%が15番染色体長腕q11.2-q12の微細欠失,残りは片親性ダイソミーや遺伝子変異が原因という,エピジェネティックな機構の関与が知られているPrader-Willi症候群(PWS)とAngelman症候群(AS)患者において,15番染色体上の疾患関連遺伝子領域の3D-FISH解析を行った.まず,正常人とゲノム異常を伴わない片親性ダイソミーのPWS(PWS-UPD)および同AS(AS-UPD)患者各1名のBリンパ芽球様細胞株を用い,親由来の影響が知られている15q11.2-q12領域のSNRPN(父由来)とUBE3A(母由来)遺伝子を標的領域として,2遺伝子間の核内3次元距離を計測した.同一染色体上の2遺伝子間距離は0,32~0.61μmであり,正常・PWS-UPD・AS-UPDいずれも相同染色体間で差を,さらに正常と両患者についても距離の差に関して異なる傾向を認めた.また同2遺伝子間の距離と2つのアレルの核膜からの距離も,正常と両患者でやや異なる傾向を認めた.今後,正常・PWS-UPD・AS-UPDいずれも症例を増やし,さらに対象遺伝子も増やして検証してゆく.
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