研究概要 |
東京京大学医学部附属病院で切除された肺癌の外科手術材料の核酸抽出を施行し、DNAチップ、特にエクソンアレイにて解析した。2005年以降に採取された検体を順次抽出し、組織学的に明らかなUIP patternを示す扁平上皮癌10例と、臨床的背景もあわせUIP patternなどの組織学的に間質性肺炎パターンを有さない扁平上皮癌8例を比較対象としてクラスタリング解析を施行した。 UIP patternを背景に有する肺扁平上皮癌で発現が低下している分子としてmetastatis suppressor 1 (MTSS1)が検出された、この分子は当初膀胱尿路上皮癌のうち、非転移性腫瘍由来の細胞株で発現しているが、転移性膀胱尿路上皮癌では発現の低下している分子として報告されている。同様に、前立腺癌や乳癌でも同様の報告がある。この分子はアクチンなどの細胞骨格を分解する機能を有し、腫瘍細胞を動的に調整する分子と考えられる。転移は、患者の予後や腫瘍の悪性度の指標として重要な因子である。免疫染色にて組織マイクロアレイを染色試行し、解析した。マイクロアレイを解析した症例はその免疫染色の発現に関してはほぼ同様であった。短期間の予後を含めた解析では、MTSS1発現の有無で明らかな違いは見られなかった。過去の症例にさかのぼり、長期予後について今後この分子に注目し、解析する予定である。 間質性肺炎の扁平上皮癌の癌化メカニズムには、扁平上皮化生が初期的な現象として重要であることを我々は報告している。分子レベルでの通常型腺癌と扁平上皮癌で癌胎児抗原であるGPC3の発現が異なる。GPC3の発現と同様の挙動を示す分子として細胞接着デスモソームを構成する重要なタンパクである、Desmoglein3(DSG3)やPlakophilin1 (PKP1)、細胞骨格タンパクであるCytokeratin 5, Cytokeratin 13, Cytokeratin 15が見いだされた。GPC3と骨格系タンパクや、MTSS1の機能や、その発現意義を今後とも予後指標として継続的に検討していく予定である。
|