研究概要 |
残胃癌78例、胃癌全体で1050例から、ティシューアレイを構築した。残胃癌の形質特徴としては、胃型の転写因子であるSOX2の陽性率が有意に高く、腸型の転写因子のCDX2やHNF4aの陽性率は低かった。胃の中での発生粘膜の特徴が強く表れている可能性が考えられた。 SOX2と同じ、SOX遺伝子ファミリーの一つ、SOX9について検索を進めた。残胃癌でのSOX9の陽性率は低かった.また、孤発型、de novoの胃癌ではSOX9の陽性像は発がんと共に増加し、その後は癌の進展と共に減少することが分かった。発がん時のSOX9の増加は非腫瘍で、SOX9の陽性像が増殖帯にほぼ一致して観察されることから、増殖能を反映した結果と考えられた。一方、癌の進展に伴うSOX9低下はMSP法による検索でSOX9遺伝子プロモータ域のメチル化による変化と考えられた。 SOX9の意義や発現のコントロールの状態を明らかにするために 胃癌細胞株での検索を追加した。MKN1,7,74,AGSなどのSOX9の発現の状態はそのプロモータ域のメチル化と逆相関を示した。SOX9もメチル化によるエピジェネティックな支配を受けていることが明らかとなった。また、Epstein-Barrウイルスを感染させることによって、SOX9遺伝子のメチル化、SOX9の発現低下が引き起こされることが分かった。EBVによって引き起こされる多彩な遺伝子のメチル化の影響が、SOX9遺伝子でも同様に観察された。 胃癌におけるSOX9やその他の転写因子の意義を、更に明らかにすることで、残胃癌および、その他胃癌進展の一端が明らかになると考えられた。
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