研究概要 |
本研究では、胃粘膜幹細胞における転写調節因子Cdx2の機能を解析し、(1)その胃粘膜幹細胞の分化・増殖に及ぼす影響、(2)腸上皮化生と胃癌発生リスクとの分子生物学的関連、(3)胃癌、腸上皮化生におけるCdx2発現調節メカニズムを明らかにすることを目的としている。本年度の研究成果は以下のごとくである。 1.胃癌組織の免疫組織化学的解析から、非癌部腸上皮化生粘膜にCdx2発現が見られ、腸型タイト結合分子claudin-3,-4の発現と強く相関しており、同様の相関は胃癌組織においても確認された。さらに、Cdx2発現のない胃癌細胞株TMK-1にCdx2を遺伝子導入すると、claudin-3,-4の発現が特異的に誘導された。さらに、Cdx2の過剰発現は遺伝子導入細胞におけるG0/G1期での細胞周期停止を伴った増殖抑制をもたらした。以上からCdx2の発現は胃の腸上皮化生のみならず胃癌の腸型分化に深く関与することが示唆された。 2.胃癌組織におけるPTEN癌抑制遺伝子産物の核内発現とclaudin-3,-4を指標とした腸型分化の間に強い相関を見いだした。そこで、TMK-1細胞にPTEN遺伝子を導入するとその産物は核内に局在し、Cdx2およびclaudin-3,-4の発現を誘導した。一方、PTEN産物の脱リン酸化酵素活性を失活させた(Gl29E)変異体には腸型遺伝子誘導作用は見られず、PTEN遺伝子産物の核内移行が胃癌の腸型分化に重要な役割を演ずることが示唆された。 3.早期胃癌を免疫組織化学的に腸型タイト結合分子claudin-3,-4と胃型タイト結合分子claudin-18の発現様式により腸型claudin型と胃型claudin型に分類すると、腸型claudin型でCdx2の発現が高頻度で、同時・異時性多発胃癌・胃腺腫の発生が有意に高頻度であった。
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