本研究では、胃粘膜幹細胞における転写調節因子Cdx2の機能を解析し、(1)その胃粘膜幹細胞の分化・増殖に及ぼす影響、(2)腸上皮化生と胃癌発生リスクとの分子生物学的関連、(3)胃癌、腸上皮化生におけるCdx2発現調節メカニズムを明らかにすることを目的としている。本年度の研究成果は以下のごとくである。 1.前年度に、SW480細胞を、がん幹細胞マーカーCD133陽性群と陰性群に分離すると、陽性群でCdx2の発現が無く、陰性群ではCdx2陽性であることを見いだしたが、陽性群でのCdx2発現抑制にCDX2遺伝子プロモーター領域のメチル化が関与していないことを明らかにした。 2.CD133陽性SW480細胞にCDX2を遺伝子導入すると、lamellipodiaを伴う線維芽細胞様形態変化をきたし、増殖は抑制された。 3.CDX2導入CD133陽性SW480細胞は非導入細胞に比べて免疫不全動物における造腫瘍能が低下した。 4.CD133陽性CDX2導入SW480にTGFβを添加するとCD133発現陽性細胞の割合が増加する事を確認した。 以上より、Cdx2はCD133陽性SW480細胞の形態変化、増殖を調節し、TGFβはCDX2導入SW480においても幹細胞分画の維持、増加に関与する重要な増殖因子である可能性が示唆された。
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