研究概要 |
L22マウスモノクローナル抗体は、当教室でヒト扁桃リンパ球を免疫することにより得られた抗体である(Takami T, et al. J Immuno1.1985)。L22抗原はリンパ濾胞マントル領域に局在する静止期B細胞に特異的に発現するため、液性免疫の成立過程に深く関与することが想定されていた。L22抗原の本体は長らく不明であったが、我々は質量分析などによりL22抗原がアラキドン酸5-リポキシゲナーゼ(Alox5)であることを見出した。Alox5は生理活性エイコサノイドの産生に関わる脂質代謝酵素であるが、エイコサノイドの液性免疫系における役割は未だ不明な点が多い。 Alox5遺伝子欠損マウスを解析したところ、同マウスではヒツジ赤血球などの異物抗原に対する血清抗体価が顕著に低下しており、特に感染免疫に重要であるIgG2aについては抗体価のみならず抗体量そのものも低下していた。またマウスからB細胞を分離してB細胞の初期分化に関わる刺激を行い抗体産生能を検討すると、B細胞抗原受容体(BCR)の刺激に関してはIL-4やCD40の共刺激があるほど抗体産生応答は低下し、さらにはToll様受容体(TLR)であるTLR4やTLR9の刺激に対する抗体産生応答も明らかに低下していた。またリンパ球がないRag1遺伝子欠損マウスにAlox5遺伝子欠損マウスの骨髄幹細胞を移植したキメラマウス(Rag1/Alox5マウス)は、実験腸炎モデルにて感染により死亡し易い傾向が見られた。こうした研究結果からAlox5は液性免疫の成立に重要な役割を果たしており、特にBCRとTLRの感受性そのものをコントロールする働きがあると考えられた。つまりB細胞自らが産生する脂質メディエーターはB細胞の抗原センサーのチューナーとして機能し、液性免疫による生体防御機構を調節する際の新たな作用点として位置付けられる。
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