研究概要 |
昨年度実績によるCD10とキマーゼによる腫瘍特異的AT活性化機構は癌細胞が自前でATをon siteで活性化し自己の増殖促進に使用可能にする機構であり注目された。そこで、口腔扁平上皮癌・胃癌においてこの機構について検討を行った。口腔扁平上皮癌においては、CD10の発現はごく低頻度であった。キマーゼの発現は腫瘍細胞では微弱なものが約30%に認められたが、stageとの間に相関は認められなかった。一方、キマーゼを高発現するマスト細胞の腫瘍内浸潤数はstageとの間に相関が認められ、口腔扁平上皮癌ではキマーゼを介するAT活性化機構が存在することが明らかになった。一方、胃癌では約10%においてCD10陽性であり、これらの症例の85%で肝転移が認められた。大腸癌におけるCD10と肝転移の相関は、転移により肝細胞から反応性に分泌される腫瘍抑制性のメチオニン-エンケファリンをCD10が分解することによることを報告者は本年度論文報告しており、胃癌においても同様の機構が存在することが明らかになった。アンギオテンシン受容体としては、ATII1型受容体がATIIの正の作用を発現するものとされる。一方、ATII分解物の一つであるAT(1-7)の受容体であるMAS1はATII抑制性の作用を発現するとされる。このAT抑制性受容体の発現を大腸癌で検討すると、癌・正常粘膜ともにまったく発現は認められなかった。これに対し、乳癌では、正常乳管上皮・上皮過形成・管内乳頭腫ではMAS1発現が保たれているのに対し、DCIS,IDCでは発現が消失していた。乳癌細胞株を用いた実験でも、AT(1-7)により腫瘍細胞の増殖・浸潤の抑制が見られ、MAS1ノックダウンで消失した。また、同細胞によるマウス皮下腫瘍の増大もAT(1-7)で抑制された。このように、AT(1-7)/MAS1による腫瘍抑制系が乳癌に認められた。
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