研究概要 |
慢性臓器炎一癌連関のモデルとして、潰瘍性大腸炎(UC)一大腸発癌系を選び、上皮と間質細胞のクロストーク不全に伴う、上皮細胞の癌化という視点で検索を行った。UC患者大腸粘膜の生検材料のプロテオーム、cDNA microarray解析により得られた、01factomedin-4(OLM4),Peroxiredoxin-1(PRDX-1)をマーカーとして、UC患者大腸粘膜の上皮細胞におけるこれらの蛋白質の発現を免疫組織化学的に観察した。その結果、OLM4はUCの炎症の強さに相関して大腸粘膜上皮細胞の発現が増強し、pNF-kB,GRIM-19の発現とも相関していた。さらに、OLM4はNF-kBによって活性化されて、GRIM-19のアポトーシス効果を抑制しており、これが腫瘍化の1因子になっていることが明らかになった。さらに、GRIM-19はレチノール酸(Vit A)とInterferon一βにより活性化することから、大腸粘膜のVit A貯蔵subepithelial myofibroblasts(肝臓の星細胞と同等の細胞と同定した)が上皮細胞をコントロールしている可能性が指摘される。一方、PRDX-1は炎症に伴う酸化的ストレスに対応する蛋白質であり、やはり炎症の程度に連関して、UC大腸粘膜上皮細胞における発現の増強がみとめられた。すなわち持続する炎症による酸化的ストレスが加わることにより、上皮細胞のDNA傷害が生じて、p53 check point機構に負荷がかかり、さらにはp53の変異が生じてDNA修復、アポトーシス誘導機序が破綻して、腫瘍にむかう経路が示された。
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