研究概要 |
炎症性腸疾患の潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)は、本邦でも増加傾向がみられる。また、UCのみならずCDにも癌の合併がみられることが知られるようになってきた。しかし、両疾患とも早期発見は非常に困難である。本研究の目的は早期発見の困難なUCに合併する前癌病変や早期癌の有用な診断法を確立することである。 UCで手術された37例(男性17例、女性20例)を発症後、0-5,6-10,11-15,16-20,21年以上に分けて検討した。使用した抗体は、MUC5AC,MUCl,MUC6,CK7で、免疫組織学的にUCの粘膜およびUC合併大腸癌について検討した。MUC6の発現はUCの非癌粘膜において発症後経過年数が増すにつれ増加傾向がみられたが、癌での発現頻度は25%と低くUCのサーベイランスに必ずしも有用でない。CK7の発現は通常の大腸癌では約10%に発現がみられるが、UC合併大腸癌では70%にみられた。しかし、UCの幼若な再生上皮にも発現がみられるため、背景粘膜の検討ではそれらを除外して検討する必要がある。MUC1の発現頻度はUC合併大腸癌で80%、UCの非癌粘膜でもUC発症11年目以降42%にみられた。MUC5ACの発現頻度はUC合併大腸癌では70%であった。またUCの非癌粘膜において発症後の経過年数が増すにつれて発現が増加していた。UCのサーベイランスの際、内視鏡的に癌が発見されなくても、背景粘膜の生検でMUC5ACまたは、MUC1の発現がみられた場合、緊密なフォローアップが必要である。
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