研究概要 |
今年度は,抗S1P1ウサギ抗体を用いた免疫組織化学的検索によって,S1P1が血管・リンパ管内皮細胞とマントル細胞に高発現しており(J Mol Histol 2008),臨床病理学的にもS1P1が血管肉腫の鑑別診断に有用な免疫組織学的マーカーとなることを報告した(Virchows Archiv 2009)。さらに,FTY720が結合するもう一つのS1PレセプターであるS1P3について,免疫組織学的に使用可能な抗体を見出した。ついで,血管肉腫株・3つのマントル細胞リンパ腫(MCL)株・および40症例の凍結リンパ節について,5つのS1Pレセプター(S1P1〜S1P5)の発現をQT RT-PCRで調べた。またS1P1とS1P3については免疫組織化学で検索した。MCL株の一つであるREC-1ではS1P1が高発現していたが,その他4つのS1Pレセプターの発現はすべて低値であった。また他のMCL株ではcyclinD1がREC-1と同程度発現しているにもかかわらず,すべてのS1PレセプターのmRNA発現量が低く,低酸素下(1%O2)でも発現量の増加はなかった。一方,凍結リンパ節のQT RT-PCRでは,血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AILT)においてS1P3 mRNAの高発現が見られたが,組織学化学的にはリンパ球ではなく,血管・リンパ管内皮細胞や血管周囲細胞,血管平滑筋細胞に発現していた。S1P4はT細胞リンパ腫で高発現していたがS1P2とS1P5はいずれにも発現は見られなかった。以上,FTY720が結合するS1P1はMCLや一部のT細胞リンパ腫に発現するが,S1P3はリンパ腫細胞には発現せず間質細胞に発現していることが判明した。したがって,S1P1の発現量が著しく異なるMCL株間でFTY720の生物学的効果を比較すれば,MCLにおけるS1P1の発現の意義を知ることが可能と考えらた。
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