研究概要 |
今年度は,抗S1P1ウサギ抗体を用いた免疫組織化学やwestern blotting,およびreal time RT-PCRなどの検索によって、S1P1がB細胞リンパ腫ではマントル細胞リンパ腫に比較的特異的に高発現しており、S1P1がマントル細胞リンパ腫のマーカーとして有用であることを報告した(Mod Pathol 2010)。また、S1P1は免疫組織学的に成人T細胞白血病リンパ腫28症例のうち5例に陽性であり、western blotting,およびreal time RT-PCRの検討でも、HTLV-I感染細胞株5株のうち特にMT2およびMT4に高発現を認めた。そこで,マントル細胞リンパ腫細胞の代わりにS1P1陽性のHTLV-I感染細胞株MT2を使って、S1P1のagonistであるsphingosine-1-phosphate, FTY720 phosphate(FTY720-P),活性型stereoisomerであるFTY720(S)-phosphate[FTY720(S)-P],SEW2871,およびFTY720(FTY720-Pの前駆体であり臨床で経口的薬剤として試用されている)によるS1P/S1PRのシグナリングを解析した。トランスウェルによる無血清下でのMT2のS1Pに対する細胞走化性の検討では、100nM~1μMで走化性の亢進を認めた。一方、10%血清に対するMT-2の細胞走化性にFTY720-Pは影響を与えなかったが、FTY720では抑制が認められた。Agonist刺激後のS1P1のinternalizationを免疫細胞化学で検討したところ、S1PやFTY720-P,FTY720(S)-P刺激後10分ですでにS1P1は細胞膜から細胞質に移行したが、FTY720-PやFTY720(S)-PではS1Pと異なり、一時的に細胞質から完全に消失した。一方、FTY720では細胞膜から細胞質への移行は明らかではなかった。血清を含んだ培地中では細胞膜の一部に極性をもってS1PR1陽性像が認められ、無血清培養では細胞膜にびまん性の陽性像を認めた。したがって、(1)FTY720-PはS1Pと同様にS1P1のinternalizationを引き起こすが、S1P1の細胞内での動態は異なる。(2)FTY720はS1PR1を介さずリンパ腫の細胞運動を抑制する。(3)ATLL細胞などの腫瘍細胞においてもS1P/S1PR1シグナリングが働いており、S1PR1を高発現する実際のATLLにおいても、その転移能などに関与している可能性が示唆される。(4)S1P/S1P1のシグナリングの抑制によるS1PR1陽性白血病/リンパ腫の治療の可能性も考えられる。
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