研究概要 |
今年度は,まずホルマリン固定パラフィン包埋切片(FFPE)での悪性リンパ腫の診断に,sphingosine-1-phosphate receptor(S1PR)の発現パターンを知ることが有用か否かについて検討した。リンパ腫とヒト大脳のパラフィン切片よりmRNAを抽出し,アンプリコンサイズが100bp前後のprobe(Qiagen)を用いてreal time PCRを施行した。その結果,アンプリコンサイズが100bp以下となるprobeであれば,パラフィン切片でもS1PRのmRNA,特にS1PR1の発現が定量的に解析できることが確認された。 次にFTY720のマントル細胞リンパ腫に対する抗腫瘍効果に関するメカニズムをin vitroで解析した。10μMのFTY720はS1PR1の発現量の有無にかかわらず,いずれの白血病/リンパ腫細胞株(MT2・MT1・Rec-1・Granta)においても増殖・生存を抑制した。またMT2やRec-1を1nMのFTY720やFTY720Pと短時間incubateするだけで,これら腫瘍細胞の血清への遊走が抑制されることをTranswell assayによって見出した。また,この極めて低濃度のFTY720の細胞遊走抑制効果がFTY702Pを介したものか否か検討するために,MT2をFTY720とFTY720Pでそれぞれ5nM,0,3,5,10,30min処理した後,Transwell assayを行った。FTY720Pでは3分以内に遊走抑制効果が見られたが,FTY720の抑制効果はFTY720Pに比べると10分のtime-1agがあった。次いで,MT2とRec-1において,10nM~10μM濃度のFTY720とFTY720Pが,Akt, Erk1/2, stat-3およびprotein phosphatase 2A(PP2A)のリン酸化に及ぼす影響をwestern blotで検討した。MT2細胞では血清加培養によってAktやStat-3のリン酸化が,またRec-1ではAktのリン酸化がみられたが,10μMのFTY720添加ではこれらリン酸化の有意な抑制を認めた。一方100nM以下ではこれらのリン酸化の抑制は認められなかった。またPP2Aに関しては,10μMではY307のリン酸化が抑制された。以上のことから10μMのFTY720でのリンパ腫細胞の増殖抑制効果は,主にPP2Aの活性化によるAktシグナルの抑制によるものと思われた。また,1nMのFTY720での細胞遊走抑制効果は,細胞内でのFTY720Pへの変換による結果と思われた。さらに,前年度の結果を考慮すると,FTY720Pは添加方法や測定方法によって細胞遊走に対する効果が異なることがわかった。
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