研究概要 |
卵巣癌検体多数症例にてG蛋白質共役受容体であるCXCケモカイン受容体CXCR3変異型の意義を解明するためmRNA/蛋白レベルでの発現解析を施行した.Q-PCRの結果,古典的CXCR3にあたるCXCR3AとそのリガンドCXCL11は卵巣癌で上昇していた.CXCR3-altは卵巣癌で特異的に発現し,子宮内膜症や正常卵巣では殆どが感度以下であった.一方,CXCR3Bは正常卵巣や内膜症で高値をとる例が多いのに対し,殆どの卵巣癌症例で抑制されていた.CXCR3BのリガンドCXCL4も癌で発現が低下していた.CXCL11の発現はCXCR3-altの高い癌症例で有意に高く,逆にCXCL4の発現はCXCR3Bの低い癌症例で有意に低い傾向が示された.Western blotによる蛋白解析においても癌症例ではCXCR3AとCXCR3-altが他群に比べて有意に発現が強く,CXCR3Bは正常卵巣や内膜症の発現が癌に比較して高度であった.In situ hybridizationを用いた局在解析から,CXCR3Aは癌細胞に強く発現するのに対しCXCR3B,CXCR3-altは癌間質や腫瘍血管に好んで発現する傾向が見出された.内膜症合併卵巣癌においてこれらのリガンドや変異型の発現は内膜症と癌の中間レベルを示した.以上の結果から,内膜症と卵巣癌の炎症性微小環境の違いはCXCR3変異型とそのリガンドによって特徴づけられる事が明らかになった.今後,内膜症を母地とする卵巣癌におけるCXCケモカイン-CXCR3受容体axisの変化を病理組織学的に検討するとともに,これらのG蛋白質受容体シグナルが発癌過程でどのように癌化や炎症に関与するか,解明していく予定である.また受容体変異が癌浸潤や炎症細胞浸潤を調節することが強く示唆されたことから,細胞骨格・浸潤に重要なインテグリン発現に関わる4回膜貫通蛋白質とどのように関わるのか,本課題の後半部について今後ひきつづき解析を進める予定である
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