研究概要 |
研究の概要並びに目的:テラヘルツ(以下,THz)波の医療応用,特に非観血的な方法での病理診断への応用についての可否を検討した. 方法:旧半導体研究所が開発したGaP結晶式THz波発生装置を使用し,以下の検討を行った.(上記のGaP結晶式THz波発生装置は現在上智大学西澤記念テラヘルツ研究所に移管され,運用されている) 1) THz波の生体分子マーカー(抗体,特異的生体物質)の検出への応用 THz波の物質特異的スペクトルを有するという特性を用いて,THz波による組織試料中の生体分子マーカーの検出を試みた.今年度は病理組織診断で用いられる免疫組織化学染色の一方法である,ストレプトアビジンービオチン(以下SAB-BO法)及び金コロイド法の抗原-抗体-酵素標識試薬の結合物の検出の可能性を,検討した. 組織試料を用いた検討に先行して,アクリル製スライドグラス上に一次抗体と二次抗体を反応させたもの,一次抗体二次抗体及び酵素標識試薬を反応させたもの,一次抗体,二次抗体,酵素標識試薬及び発色基質(DAB)まで反応させた各組織試料を作成し,これらの試料におけるTHz波の透過性の相違を検討した. 2) THz波の免疫組織化学染色への応用 上記1)を踏まえ,大腸癌の組織試料を対象として免疫組織化学染色(SAB-PO法)の各抗体,試薬の反応段階を施行し,大腸癌に特異的な生体分子マーカーである癌胎児性抗原(CEA)のTHz波による検出を試みた. 結果:1) SAB-PO法及び金コロイド法ともに一次抗体+二次抗体,一次抗体+二次抗体+酵素標識試薬,一次抗体+二次抗体+酵素標識試薬+発色基質(DAB)に特徴的なTHz波の吸収スペクトルが認められた,この結果よりTHz波による生体分子マーカーの検出への応用への可能性が示唆された.2)組織試料の免疫組織化学染色では,一次抗体-二次抗体-酵素標識試薬-発色基質(DAB)と反応物質を重ねるにつれてTHz波の組織透過性が向上する傾向を示し,それぞれの反応過程がTHz波の透過性に影響する可能性が推察された.同結果より,THz波による物質の同定の可能性が示唆された.
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