RNA転写活性の盛んな遺伝子の微小構造を調べるために、Microscopic Fluorescence Resonance Energy Transfer (FRET)法を応用して、細胞核内および各染色体におけるクロマチン凝集の程度をオングストロームレベルで解析した。FRET法は、適切な2種類の蛍光分子ペアが100Å以下の距離に近接した時に生じるエネルギー移動であり、その解析は、2つの分子の相対的位置関係、すなわち距離と方向性についての様々な情報を与えてくれる。 RNA転写活性の盛んな遺伝子として、1番染色体におけるEpidermal differentiation complex (EDC)を用いた。EDC遺伝子は、扁平上皮細胞では、1番染色体のchromosome territory内での部位(subchromosomal positioning)を変化させる。本研究では、扁平上皮切片標本に対して、1番染色体全腕に対するプローブとEDCの一部であるSPRR遺伝子に対するプローブ(FITC標識;PAC clone RP1-13P20)を用いて2重FISH染色した。この際、1番染色体全腕プローブはFITCとAlexa Fluor 546で2重標識し、これらの蛍光色素間で起こるFRETの計測に基づき、1番染色体内でDNA凝集の程度を定量化した。EDC(SPRR遺伝子)の存在部位と1番染色体内でDNA凝集の程度を比較した結果、EDC遺伝子の多くは、1番染色体内でFRET量の少ない部位、すなわち、DNA凝集が弱い部位に存在していることが示された。 以上より、RNA転写活性の盛んな遺伝子では、subchromosomal positioningを変化させるのみならず、DNAのオングストロームレベルでの凝集を変化させ、RNA転写活性しやすいDNA構造を作っているものと考えられた。
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