研究概要 |
本年度は、研究計画の最終年度であるため、研究の補足的実験とまとめを行った.すなわち、 1. 染色体のマイクロメータレベルの高次構造の変化の解析では (1) 癌化に伴う10,18,19番染色体のchromosome territoryの変化は,甲状腺乳頭癌では軽度であり,18番染色体は核内内側に,19番染色体は核内外側に位置した.一方,未分化癌では各染色体の数の増加とともにその分布に大きな変化が認められた. (2) 尿路上皮癌細胞の中で強い細胞異型を示す癌細胞では,核内の3,7,17染色体のうち2つ以上の染色体の増加が認められ,細胞異型の程度と染色体数の間に関連が見られた,一方,9p21遺伝子欠失と細胞核異型の間には相関が認められなかった. (3) 扁平上皮化生に伴い,EDC遺伝子は1番染色体のchromosome territoryの外へ移動する傾向が 認められ,EDC遺伝子は非上皮性細胞や腺細胞よりも扁平上脾細胞に近いsubchromosomal positioningを示した. 2. 染色体のオングストロームレベルの微細構造の変化 扁平上皮化生に伴いsubchromosomal positioningの変化を示したEDC遺伝子の周囲ではFRET量が低く,DNAの凝集の低下が示唆された. 以上より,癌化,高悪性度化,細胞異型,化生に伴い,染色体の立体構造や遺伝子位置の変化がマイクロメータおよびオングストロームレベルで起こることが示された.この核内染色体・遺伝子の高次構造の変化が,RNAへの転写環境,ひいては蛋白質の異常発現につながり,悪性腫瘍における核異型を含む様々な疾患に認められる細胞形態の変化を引き起こすメカニズムの1つになっていることが示唆された.
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