研究概要 |
【目的】肝細胞がんの発生・進展に関連する責任遺伝子の局在を突き止める目的で,原発性肝細胞がんを検索対象とし,8番染色体短腕領域にあるマイクロサテライトマーカーにて網羅的にマイクロサテライト解析を行った.【対象と方法】外科手術により得られた通常のホルマリン固定・パラフィン包埋した早期段階の肝細胞がん60症例(138病変)および病理解剖により得られた遠隔転移を伴う進行型肝細胞がん26症例(67病変)合計86症例(205病変)を検索対象とした.各症例において,未染色パラフィン切片からがん部・非がん部および正常組織をマイクロダイセクション法により切除した.採取された組織からDNA抽出を行い,8p21-23.2から選出された日本人においてヘテロ接合型である18のマイクロサテライトマーカーを用い,通常のPCR法によりヘテロ接合性の消失(LOH)を検索した.【結果と考察】18のマーカーの内少なくとも1つ以上LOHを認めたのは,早期段階の肝細胞がん59例中40例(68%),遠隔転移を伴う進行型肝細胞がん23例中16例(69%)の高頻度であった,特に8p22と8p23.1のLOH頻度に関して,それぞれの平均頻度より明らかに高い傾向が見られた.しかし,肝硬変および慢性肝傷害などを含む非がん部病変組織においては,いずれのマーカーにおいてもLOHは認められなかった.さらに,8p22-23領域にあるD8S262など幾つかの多型マーカーのLOH頻度に関して,進行型肝細胞がんの方が,早期段階の肝細胞がんより高い傾向が示唆された.【意義】以上の結果から,8p22-23染色体領域の高頻度欠失は肝細胞がんの発生だけでなく,その後の進展,特に転移過程においても重要であり,そこに重要ながん抑制遺伝子の存在が推測される.この結果は,候補遺伝子の選出には重要な意味があると考えられる.
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