我々は、肝細胞癌の発生・進展に関連する責任遺伝子が8番染色体の短腕(8p)に存在することを予想してきた。今年度は、原発性肝細胞癌を対象とし、8pにあるDNA多型マーカーを用い、合計105症例(206病変)の肝細胞癌についてマイクロサテライト解析を行った。その結果、外科手術により得られた早期段階の肝細胞癌および病理解剖により得られた進行型肝細胞癌において、それぞれ68%と69%の高頻度で染色体変化が認められた。そして、原発巣より転移巣あるいは早期癌より進行癌においてより多くの染色体変化が観察されたことから、肝細胞癌の発生と転移過程に関連する複数の遺伝子が8pに存在する可能性を新たに見出した。この結果を第21回国際分子生物学会で報告し、学術論文としても発表した。 引き続き、DLC-1を含む合計10個の候補遺伝子について遺伝子解析を行った。具体的には、まずDatabaseに登録された遺伝子情報を参照し、各遺伝子のコード領域に対するプライマーを設定した。それから20症例の肝細胞癌を対象とし、通常のPCR-SSCP法やSequence法によりそれぞれの遺伝子の塩基配列を検索した。その結果、10個の候補遺伝子のうち9個において、癌細胞と正常細胞が同じ塩基配列を持っていることが判明した。これらの遺伝子が塩基配列の変化により直接的に肝細胞癌の発生に関与する可能性の低い事が示唆された。残りの1つの遺伝子において合計6ヶ所の塩基配列の変化が見られた。この変化が肝細胞癌の発生に関連しているかどうかについて現在解析中である。 一部の解析結果は、2009年9月に米国国立衛生研究所のGenetic Alterations in Cancerデータベースに収録され、より多くの研究者に情報を提供した。
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