我々は、肝細胞がんの発生と転移過程に関連する責任遺伝子を同定することを目指し、様々な手法を用いて挑戦的な研究を行ってきた。今年度はこれまでのマイクロサテライト解析結果に基づき、候補領域8p22-23からDLC1、DBC2、MTUS1などを含む10数個の候補遺伝子を選出した。シークエンス解析を行ったところ、いずれの遺伝子においても有意な突然変異がなかったことが判明した。しかし、MTUS1には合計6ヶ所の塩基配列の変化が検出されたため、当該タンパクに対して特異的なポリクロナール抗体を作製した。既にWestern Blotting法により抗体の特異性の確認を終了しており、現在免疫組織化学的手法により肝細胞がんにおけるMTUS1タンパク質の発現様式を検討中である。最近、当講座にリアルタイムPCRシステムが導入され、候補遺伝子の機能解析に関連する核酸の定量解析や染色体のコピー数まで解析することが可能となり、MTUS1を用いて現在検索中である。さらに、今年度の我々の研究において肝細胞がんとの比較研究のため、原発性肺がんを検索した結果8pの高頻度欠失が明らかとなり、発がん過程との関連性が肝細胞がんと同様であることが示唆された。従って、これまでの本研究の結果から、発がん過程には8pの欠損が重要な役割を果たしていることが考えられ、今後各種がん疾患の病態解明のツールとして利用できることが期待される。その結果を第69回日本癌学会と第99回日本病理学会で報告した。
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