近年、検索方法の進歩に伴い、種々の遺伝子が腫瘍の発生に関連する遺伝子として発見されている。我々は、これら新規に発見された遺伝子の中から、肝細胞がんの発生・転移に関連する責任がん抑制遺伝子を見つけることを最終目的とした。本年度は、引続き候補遺伝子DLC1、MTUS1とPROM1の機能に関連する解析を行った。 まず、肝がんの発生に関連するがん抑制遺伝子の一つであるDLC1に対して、2種類の抗DLC1ポリクロナール抗体を用い、免疫組織化学的にその発現の検討を行った。その結果、非腫瘍部肝細胞に比べ、がん細胞においてDLC1タンパク質の発現減弱・減少が認められたのは、19例中僅か5例(26%)であった。この結果から、多くの肝細胞がんの発生には、DLC1以外の遺伝子が関与する可能性が示唆された。次にMTUS1について、4種類のポリクロナール抗体を作製し免疫染色を行った。いずれの抗体も肝細胞ではなく間質とのみ反応しており、この結果から、今回作製した抗体は免疫染色には適しないと判断した。 一方、PROM1はがん幹細胞マーカーとして報告されたが、真の生物学的機能は未だに解明されていない。我々は、PROM1はヒトの正常肝細胞において胎児期から恒常的に発現していることを確認した上で、肝細胞がんを対象とし、PROM1タンパク質の発現を比較検討した。その結果、すべての肝細胞がん症例において非がん部肝細胞よりがん細胞におけるPROM1タンパク質の発現減弱が認められた。そのうち、75%の症例においてタンパク質の完全消失が観察された。この結果から、PROM1は、肝細胞がんの発生過程において、がん抑制遺伝子としての働きをもつ可能性があると考えられる。この結果を3つの演題に取り纏め、第101回日本病理学会で発表する予定である。
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