我々は、同意が得られた患者の腫瘍組織、胸水、腹水に含まれる腫瘍細胞を培養して、悪性中皮腫由来の培養細胞株の作製を試み、20株を超える中皮腫細胞株を樹立した。これらの中皮腫細胞株をヌードマウスの皮下に移植して造腫瘍能を検討したところ、3株が可移植性を示した。これらの細胞株の中には胸腔内でも活発に増殖するものが含まれており、ヒト悪性胸膜中皮腫の恰好のモデルになると考えられた。次に、得られた中皮腫細胞株の中から、市販抗体を用いた中皮腫パネルにより、中皮腫としての特性を最も維持している細胞株を選び出し、それをマウスに免疫して、中皮腫細胞の表面抗原に対するモノクローナル抗体の作製を試みた。中皮腫細胞株で免疫されたマウスのリンパ球とhypoxanthine-guanine-phosphoribosyltransferase酵素欠損のミエローマ細胞株をポリエチレングリコールで処理した後、HAT培地で培養することで自律性に増殖できる抗体産生リンパ球(融合細胞)を獲得した。フローサイトメトリーにより、免疫原に使用した中皮腫細胞株の表面抗原に対する抗体が産生されていることを確認するとともに、中皮腫細胞株には反応するが、肺腺がん細胞株には反応しないクローンをスクリーニングした。その中に中皮腫細胞株に強く反応し、肺腺がん細胞株に全く反応しないクローンが含まれていた。このモノクローナル抗体の中皮腫細胞株に対する感度を検討したところ、約83%であり、特異度は肺腺がんに対して100%であった。この抗体は免疫組織化学染色にも使用可能であった。今後は、この抗体が認識するエピトープを決定するとともに、抗体の抗原認識部位(可変部位)も決定する予定である。また、抗体の生物学的特性についても検討する。
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