近年、アスベスト(石綿)と関連が深いとされる悪性中皮腫の発症の増加が著しい。悪性中皮腫の確定診断は病理診断に基づいて行われているが、その組織像は上皮様形態(上皮型)から肉腫様形態(肉腫型)に至るまで多彩であり、免疫組織化学染色を施行しても抗体の感度や特異度が十分で無く、病理診断は極めて難しい。また、悪性中皮腫の早期病変を発見するための優れたバイオマーカーは皆無に近い。 我々は、同意が得られた患者の腫瘍組織、胸水、腹水に含まれる腫瘍細胞を培養して、悪性中皮腫由来の培養細胞株の作製を試み、20株を超える中皮腫細胞株を樹立してきた。これらの中皮腫細胞株の中に、ヌードマウスにおいて造腫瘍能を有するものを見出し、ヌードマウスの胸腔内で増殖する中皮腫モデルを確立した。平成20年度は、中皮腫細胞株に強く反応するが肺腺がん細胞株に全く反応しないモノクローナル抗体を単離した。平成21年度は、そのモノクローナル抗体の抗原認識部位(可変部位)を同定し、塩基配列を決定した。また、中皮腫細胞株には反応するが反応性中皮に反応しない分子について探索を進め、両者間において発現に有意な差がある分子を見出した。その1つの分子について、抗体を用いて20症例を超える悪性中皮腫と反応性中皮を比較・検討したところ、感度:>90%、特異度:100%を示した。今後も、他の分子についても解析して、診断マーカーとしての有用性について検討を進める。
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