従来前癌病変とされてきた口腔粘膜dysplasiaは、一部は既に癌として治療すべき病変であるとして注目されています。その客観的根拠を得る目的で、我々は独自に開発した組織Q-FISH法を用いて、口腔正常粘膜および口腔上皮内病変(dysplasiaやCIS)のテロメア長を細胞種別に解析することにしました。 平成21年度は、20年度に引き続き、連携研究者である埼玉がんセンター研究所出雲俊之研究員の蓄積する上皮内腫瘍病変パラフィンブロックからのCIS症例収集を継続し、組織検定後に解析を行ないました。また、上皮異形成(dysplasia)の症例を収集し、組織検定後に解析を開始しました。前年度に作成した組織FISH法によるテロメア長測定時のコントロールとなるセルブロックを利用してFISH時に検体と同一スライドガラス上に置き、標準化に使用しました。また、FISH解析と同時にKi-67の免疫組織化学的検討を行ないました。 以上の結果、上皮内癌においては免疫組織化学的に増殖能を示す細胞が拡大し、幹細胞が存在すると考えられる基底細胞層にもXi-67陽性細胞が多数出現すること、またテロメア長は正常対照群に比して全体に短縮するが、その傾向は特に基底細胞層で著明であり、上皮内癌では基底細胞層と傍基底細胞層や棘細胞層との間にテロメア長の差がみられないこと、が分かりました。また組織学的に明らかな変化を認めない病変周囲の背景上皮にも有意なテロメアの短縮が認められることが示唆されました。 これらの結果の一部については日本病理学会、日本癌学会において発表し、口腔上皮内癌および背景上皮のテロメアについては英語論文の発表を行ないました。
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