[具体的内容] p63の発現消失よる扁平上皮癌の上皮間葉転換(悪性転化)の機構を明らかにする目的で、次の各項目の実験を実施した。 (1) p63のRNAサイレンシング: p63を高発現する扁平上皮癌細胞FaDuおよびSCC4において、我々が設計したsiRNAの導入によりp63のノックダウンを実施した。約90%のp63タンパク質消失が確認され、p53やp73に影響せずp63に特異的で高率なノックダウン細胞が得られた。 (2) 遺伝子発現への影響: RT-PCRおよびメンブレン遺伝子アレイによりp63消失に伴う遺伝子発現の変化を調べた。p53標的遺伝子群とその他の細胞周期関連遺伝子群に明確な変化は見られず、p63消失による接着因子インテグリンα3とβ4の低下が確認された。 (3) 細胞分裂への影響: p63ノックダウン細胞では分裂が抑制され、cyclinD1およびp21waf1の核内蓄積とG1期停止が観察された。p63の消失によりタンパク質脱リン酸化酵素PP2Aの活性が低下し、GSK-3βのSer9リン酸化やErk-1リン酸化の恒常的な促進が見られた。 (4) 悪性転化とp63発現の関連:ΔN-p63のプロモーターがSmad2とIKKαによる新しいTGF-βシグナル伝達系により活性化されることを明らかにした。また、IKKαとΔN-p63が相互に発現を活性化する増幅機構を示す結果が得られた。 [意義と重要性] p63は機能的にp53と重複せず、接着関連の標的遺伝子に作用することが確認された。また、p63がGSK-3β経路に影響して細胞分裂を促進するという新しい分子機構が明らかになったことで、細胞分化と関連するWntシグナル系との接点が見つかった。さらに、p63の消失による上皮間葉転換がSmad-IKKα経路による細胞制御と関連するという新しい視点からの研究展望が開かれた。
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