研究概要 |
本研究は消化管上皮細胞の増殖・分化に関わる生理活性物質、特に肝細胞増殖因子HGFとその活性化関連分子HGFA,c-met HAI-1,HAI-2,H2RSPの、消化管上皮細胞の増殖・分化における病態生理学的意義の解明を行なうことを目的とし、従来から研究を行っている単層円柱上皮(腺癌)系のみならず、重層扁平上皮(扁平上皮癌)系でのその機能解析も行っている。昨年度までに頭頚部扁平上皮癌で発現しているmiRNA全般についてマイクロアレイを用いて解析し、扁平上皮で特異的に発現しているmiRNAを複数同定した。さらに臨床材料(ホルマリン固定パラフィンブロック)を用いてその検証を行い、miR-205が扁平上皮に特異的に発現するが他の組織ではほとんど発現が見られないこと、miR-21が腺系上皮のみならず扁平上皮においても正常に比し癌部で高発現することが明らかとなった。miRNAは非常に小さく安定でこれ以上断片化されることはなく、ホルマリン固定パラフィンブロックからも簡単に抽出可能であること、また凍結組織と異なり、ホルマリン固定パラフィンブロックは、病理組織診断で日常的に用いられていることから、通常の病理診断に加えて、miR-205とmiR-21を定量することにより、原発不明癌や組織型不明癌に対する扁平上皮癌の診断マーカーになりうることを示し論文として報告した(Oncol Rep,2010)。今年度はその成果をもとに、培養頭頸部扁平上皮癌細胞株を用いて、肝細胞増殖因子HGF刺激前後でのマイクロRNA(miRNA)の発現変化についてmiRNAマイクアレイを用いて比較検討を行った。その結果、HGF刺激前後で発現が変動する数個のmiRNAを同定し、その中で興味深いターゲット遺伝子が報告されている2つのmiRNAに注目し、培養細胞での検証を行った。ターゲット遺伝子がmiRNAの発現変化に伴って並行して発現が変化すること、外から当該miRNAを投与することによってその効果が消失することを確認した。このことは増殖因子がターゲット遺伝子の転写を直接制御しているのみならず、miRNAの発現調節を通しても下流のターゲット遺伝子の発現を調節していることを意味する。これらの成果は国際学会(米国癌学会)で発表した他、論文にまとめた(投稿中)。
|