研究課題
癌抑制遺伝子drsの感染防御作用を明らかにするためdrs knockout(KO)細胞を用いて、以下の成果を得た。(1)drs KO細胞では野生型(WT)細胞に比べ、水泡性口炎ウイルス(VSV)感染に対する感受性が亢進していた。またKO細胞へのdrs遺伝子の再導入によりこの形質が抑制されることからdrsのVSV感染防御作用を明らかにした。(2)drsはグルコース枯渇に対する細胞応答にも関与することを見いだした。このことからウイルス感染やグルコース枯渇に対するストレス応答遺伝子であるGADD34との関係に着目し、GADD34とdrsが相互作用することを明らかにした。(3)GADD34はVSV感染に関与する一方、単純ヘルペスウイルス(HSV)感染に対しては作用しないことをこれまでに明らかにしていたため、drsでも同様の現象が見られるかどうか検討した。その結果drs KO細胞ではGADD34 KO細胞とは異なり、HSV感染に対する感受性も亢進することを見いだした。またGADD34 KO細胞でのVSV感染感受性の亢進が、mTOR阻害剤であるラパマイシンによって阻害されるのに対し、drs KO細胞では阻害されなかった(4)VSV感染時、WT細胞ではリボソームS6タンパク質のリン酸化が抑制され、タンパク質合成が抑制されていたが、drs KO細胞ではこのS6リン酸化の抑制が消失していることを見いだした。S6リン酸化に関わるタンパク質のうち、mTOR下流で働くp70 S6Kの活性化には変化がなかったが、p90 RSKの活性化がdrs KO細胞で亢進している可能性を見いだし、さらに検討を続けている。以上のことから、drsがストレス応答遺伝子GADD34と相互作用することを明らかにしたが、その抗ウイルス作用についてはGADD34やmTORに非依存的なp90 RSKを介する経路が関与する可能性が示唆された。VSVやHSVはoncolytic virusとして腫瘍のウイルス療法の開発に用いられており、本研究の成果はこれらの治療法の開発にも貢献することが期待される。
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Cancer Letters (In press)
Molecular Carcinogenesis (In press)
Int. J. Oncol. 32
ページ: 161-169