研究課題
癌抑制遺伝子drsの感染防御作用とその分子メカニズムを明らかにするため、Drsノックアウト(KO)細胞を用いて以下の成果を得た。(1)drsによる感染防御の分子メカニズムを明らかにするため、VSV感染KO細胞を用いて、ウイルス蛋白質の合成に関わる宿主細胞側のシグナル伝達分子の解析を行った。VSV感染時の宿主細胞の蛋白合成は、KO細胞でも野生型(WT)細胞と同様に抑制されていた。この機構を調節するインターフェロン応答関連分子eIF2αのリン酸化にも差は見られなかった。一方、WT細胞ではVSV感染時にリボソームS6のリン酸化が抑制されウイルス蛋白合成が抑制されていたが、KO細胞ではS6リン酸化の抑制が消失しており、このことがウイルス蛋白合成の亢進に関与することが示唆された。(2)S6をリン酸化するRSKおよび、その上流分子であるp38のリン酸化が、KO細胞ではWT細胞に比べて亢進していた。さらにRSKとp38の特異的阻害剤によって、KO細胞でのVSV増殖の亢進が抑制された。一方、S6をリン酸化するもう一つの経路であるS6Kのリン酸化には顕著な差は認められず、S6Kの上流分子であるmTOR阻害剤ではKO細胞でのVSV増殖亢進は抑制されなかった。(3)drs遺伝子によって感染や増殖が抑制される病原体の探索を行い、レトロウイルスの感染に対してもdrsが抑制的に働くことを新たに見いだした。以上の結果からdrsはウイルス感染時に、p38-RSK-S6シグナル伝達経路を介してウイルス蛋白合成を抑制することで防御作用を示すことが示唆された。この経路が、一般的なRNAウイルス(VSV)とDNAウイルス(HSV)だけでなくレトロウイルスも含めた、多様なウイルス感染に対し、汎用に働く自然免疫の一端を担う、新しいウイルス感染防御経路である可能性を見いだした。このことが本申請研究の21年度の成果の重要性と意義である。またRSKやp38の阻害剤に汎用的な抗ウイルス作用がある可能性から、新しい抗ウイルス治療法開発への応用が期待される。このことが本研究の医学的重要性にもつながる。
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Cancer Letters 283
ページ: 74-83
Molecular Carcinogenesis 48
ページ: 953-964