平成21年度は、セントロメアタンパク質のなかで、CENP-Aの動態に着目して研究を遂行した。CENP-Aタンパク質の減少が、どのようなシグナル経路で細胞を老化させるのか、またそのメカニズムの生理的な意義について研究を進めた。以下に研究の成果を示す。 1.CENP-Aの低下が細胞の増殖に及ぼす影響について ヒトの正常細胞とがん細胞を用いて、CENP-Aタンパク質を消失させ、増殖に対する効果を比較した。正常細胞は速やかに増殖を停止するが、がん細胞は増殖を続けることがわかった。正常細胞の増殖停止は細胞の老化であること、この老化の誘導は、p53に依存することを明らかにした。 2.CENP-Aノックダウンによる細胞老化とp53の役割について CENP-Aの低下によるp53依存性の細胞老化の生理的な意義を調べるために、生細胞観察を行った。p53の不活性化により、CENP-A低下による増殖停止が解除された結果、多くの細胞が染色体分配異常を示すことがわかった。具体的には、染色体が赤道面に揃わず分裂前中期の延長する、赤道面に揃わないまま染色体が分配される結果、微小核を形成する細胞が多く認められた。 これらの研究成果から、ヒト正常細胞には、染色体の均等分配を保障するセントロメア・キネトコアの異常に対して、速やかに増殖を停止させる機構が存在することが示唆された。また、セントロメアタンパク質の異常によって引き起こされる老化は、染色体異常を伴う細胞の発生と増殖を抑制する。本研究は癌抑制の観点からも重要かつ意義のある研究である。
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