研究概要 |
目的に即して、1.低酸素状態で維持される幹細胞の静止期[dormancy]における維持機構と、細胞周期内における自己複製の調節機構、2.造血幹細胞の細胞周期静止機構の成立とこれにかかる新生児期の造血動態変化の分子機構、3.造血幹細胞特異的細胞周期測定法と定常状態[steady state]における細胞周期静止分画の酸化的ストレス蓄積過程としての加齢・老化に伴う変化、の3点に基づいて研究を行い、以下の様な成果を得た。 1については、セルソータによって得られる骨髄細胞の未分化な造血幹細胞として、分化抗原(Lin)陰性、c-Kit及びSca-1陽性のLKS分画を用いた検討を進めてきたが、LKS分画外に長期移植能力を有する幹細胞分画が存在することが示唆される結果を得たことから、LKS分画外の予備検討を進めた。即ち、移植LKS分画由来の末梢血の出現頻度が270日後には低下することを見出したが、全骨髄細胞による移植ではこの頻度は維持される。また文献的にもLKS分画外の幹細胞の存在が示唆されている。そこで、Lin陰性分画をc-Kit及びSca-1の染色輝度で4分割したところ、c-Kit陰性Sca-1陽性分画は比較的単一の大きさに分布し、細胞内活性酸素種(ROS)を蛍光色素で測定するとLKS分画より蛍光輝度が低いことが明らかとなった。今後この分画を、LKS分画と併行して検討していく予定である。 2,3との関係では、21ヶ月齢マウスでの前駆細胞分画の細胞動態解析を行い、分化型前駆細胞においては、2ヶ月齢マウスとの差異は乏しいものの、未分化型前駆細胞においては、2ヶ月齢マウスに比べて、倍加時間が延長し、dormant fractionも大きいという、これまでの文献的あるいは実験的データから示唆されている予備能力としての造血活性の抑制状態にあることが伺われる結果が得られた。
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