研究概要 |
私共は、ヘリカーゼ研究会会員諸氏の協力により、ウエルナー症候群(WS)患者皮膚および骨格筋組織を収集しSouthern blot法によりテロメア長を解析してきた。H20年度からはより客観的・再現性のあるソフトウェアーTelometricを用いた解析を実施し、WS患者組織のケラチノサイトのテロメア長が、コントロールの健常者皮膚と比較しより急速に短縮することを見い出した。平成22年度には、種々の統計解析モデルを用いてWS患者組織とコントロール群との関係を、初期値・年齢・群間差異等について解析し、WS患者皮膚組織において、30歳代以降、正常人群と比べテロメア長が急速に短縮(25歳相当)することを明らかにした。また、骨格筋組織では、WS患者個体差が大きいものの、出生早期からテロメア長が有意に短縮していることが示された。これらの結果は国際雑誌(Aging,2011)に採択された。これはWS患者のin vivoでのテロメア長動態について世界初の報告であり、テロメア長短縮がWS患者における若年での肉腫発症および中年以降の癌腫発生に関与することを統計学的に示した最初の報告である。 一方、収集したWS患者由来繊維芽細胞株を継代培養し、FISH法による分子レベルでのテロメア長解析、サブテロメアプローブを用いた染色体組換え解析の結果、1)WS細胞株の最大継代数がコントロール株に比し有意に小さく、ほぼ半数の株で培養早期から強い形態異常を示し継代培養がほとんどできないこと。2)WS細胞株のテロメア長は継代早期に細胞老化期パターンとなり、異常短縮テロメアの蓄積すること。3)サブテロメア領域において約二分の一の染色体で組換えを生じ、染色体組換えが異常に亢進することが判明した。ウェルナーヘリカーゼ異常によるテロメア維持機構の破綻が本症発症の基盤の一つとなっていることが強く示唆された。
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