研究概要 |
我々はマウス肝発癌過程では初期から前癌病変及び肝腫瘍でPI3K-Akt経路が活性化しており、その影響下でHIF-1αの発現が亢進していることを報告してきた。PI3K-Akt経路はmTORを活性化してCap依存的蛋白翻訳を活性化することから、マウズ肝腫瘍組織及びHCC細胞についてCap依存的蛋白翻訳活性化の指標となる4E-PB1, S6Kのリン酸化を調べたところ、いずれも亢進していた。そこで担癌マウスをmTOR阻害剤であるrapamycin(Rapa)で処理したところ、4E-PB1, S6Kのリン酸化は明らかに抑制されたにもかかわらず約30%の肝癌組織でnecrosisが見られたのみで、fociやadenomaのような前癌病変では効果は見られず、またin vitroにおけるHCC細胞に対する増殖抑制及びアポトーシス誘導効果もほとんど見られなかった。一方、Rapa処理によってcyclin D1蛋白の発現は抑制されず、HIF-1α蛋白についてはむしろ発現が亢進した。HCC細胞をRapa処理後、cyclohexide(CHX)により蛋白合成を抑制したのちCHXを除去したところ、Rapa存在下でも新たにHIF-1α蛋白の産生が起ることが確認された。このことからRapaによってCap依存的蛋白翻訳を抑制するとIRES(internal ribosomal entry site)依存的蛋白翻訳が活性化する可能性が考えられる。そこで、HIF-1α mRNAの5'-UTRを含むdiCistlonic IRES vectorを作製してIRES活性を測定したところ、Rapa処理によりIRES活性の亢進が認められた。以上の結果から肝癌細胞はCap依存的蛋白翻訳が抑制されてもIRESを活性化することによりHIF-1αやcyclin D1のような癌関連蛋白を合成し続ける能力を有することが明らかになった。
|