研究概要 |
これまでにマウス不死化線維芽細胞株およびマウス良性線維肉腫細胞株を用いて低酸素再酸素化環境下にこれらの細胞株を培養するだけで, マウス個体内で致死増殖する癌細胞に進展することを見出した. このことより, 新たな発癌要因として生体に生じる低酸素再酸素化環境を提唱してきた. 本研究の目的は, これまでの研究成果を背景として上皮細胞においても同様の発癌が観察されるか否かを検証する. 検証には2通りの研究を施行した. 第一の研究は, 上皮組織由来の細胞株として, ヒト大腸腺腫細胞(FPCK-1-1), ラット小腸上皮細胞(IEC-6), ヒト胎児腎上皮細胞(HEK293)を使用した. 生体内に生じる低酸素再酸素化環境を培養条件下で再構築するために, 低酸素インキュベーター(1%酸素濃度)と通常酸素インキュベーター(20%酸素濃度)の培養環境を12時間毎に交置培養を継続中である. IEC-6細胞とHEK293細胞においては, この交置培養の施行によりヌードマウスに致死増殖する細胞へと癌化することを見出した. 癌化した細胞株では, 癌化・悪性化の指標として一般的に汎用されているコロニー形成率の獲得等の悪性形質を獲得していた. 第二の研究では, マウス個体内における虚血再灌流環境により臓器発癌に至るか否かを検討した. これまでに左腎動静脈を手術用クリップで30分間遮断し, 後に血流を回復させた。当初の研究計画では, これを2週間毎に繰り返す予定であったが, 第1回目の虚血手術施行後5週間を過ぎる頃より左腎と周辺組織・臓器間との癒着が高度となり, 虚血再灌流を繰り返し施行することが不可能な個体が増加してきた. これらの個体は閉腹後観察を続けている. 現在は研究計画・方法の一部を寄り短期間内に虚血再灌流を繰り返すように修正し, 虚血施行間隔等の実験条件を調整中である.
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