研究概要 |
生体に生じる虚血再灌流傷害が新たな発癌要因になるのではないかという発想に基づき,培養条件下に維持されている不死化正常細胞等を低酸素再酸素化環境に曝し,発癌・悪性化の進展を起こすか否かを検討してきた.細胞は,ヒト胎児腎上皮細胞(HEK293),ヒト大腸腺腫細胞(FPCK-1-1),マウス不死化線維芽細胞株(BALB3T3およびNIH3T3),非腫瘍原性のマウス良性線維肉腫細胞株(QR-32),ラット小腸上皮細胞(IEC-6)を使用した.生体内に生じる虚血再灌流傷害を培養条件下で再構築するために,低酸素(1%酸素濃度)と通常酸素(20%酸素濃度)のインキュベーター間を12時間毎に交置培養し,低酸素再酸素化を反復させた.その結果,ヒト大腸腺腫細胞を除く全ての細胞株は,ヌードマウスもしくは同系マウスに致死増殖した.癌化した細胞株では,癌化の一般的指標として汎用されるコロニー形成等の悪性形質を獲得していた.低酸素再酸素化による癌化に関連する責任遺伝子を包括的に探索するためにDNAマイクロアレイ解析を施行した.その結果,比較的多くの遺伝子発現の増減を観察したが,多くの細胞間に共通する遺伝子ファミリーの発現変化を見いだした.現在これらの遺伝子発現を人為的に制御することで癌化との関連を調べている.本研究では上述の知見が生体内においても生じることを証明するために,マウス左腎動静脈を遮断し,その後血流を再開させる虚血再灌流傷害を反復させることで癌化するか否かも検討中である.これまでに条件設定等の実験を含め計数十匹のマウスを供し,観察期間も最長1年半を超えているが,現在までに虚血再灌流臓器の発癌には至っていない.
|